05.28.2007
貸借対照表とは2[決算書の読み方5]
前回、貸借対照表は、会社の決算期末における財政状態(資産・負債・純資産の状態)を示す決算書であるとの説明を簡単な例示を使って説明しました。
今回は、実際の企業が提出した決算短信を基に具体的に貸借対照表のどういった点に着目していけばよいかの説明を行います。
損益計算書の説明の際には、東芝の19年3月決算短信を題材に説明しましたが、今回は、ペンタックスとの合併問題で揺れたHOYAの決算短信を使います。
本当は、東芝の決算短信で説明する予定で、実際に記事は完成していたのですが、貸借対照表は日本と米国会計基準との違いが大きく、題材として適切でないと判断したため、日本の会計基準に準拠している会社を選びました。その点はご容赦下さい。

参考:HOYA19/3期決算短信[単位100万円]
上図は、HOYAの19/3期の決算短信に掲載されている貸借対照表を一つの表に作り直したものです。(決算短信P12〜P13参照)
前回の復習になりますが、表の右側は、資金の出所を示しているもので、「負債の部」と「純資産の部」に分けられます。
一方で左側の「資産の部」は、集めた資金が何に姿を変えているのかを示しています。
貸借対照表は期末段階の財政状態を示すものですので、HOYAの財政状態は健全であるかどうか検討してみましょう。
ここでは、株主資本を資産全体の額で割った「株主資本比率」から算定してきます。株主資本は、自己資本ともいわれ、借入金と違って返済の必要のない安定的な資金といえますので、この比率が高いほど経営が安定しているといえます。
HOYAの株主資本は331,924で、資産全体の金額は447,644です。この数値を基に計算すると、株主資本比率は74.1%となります。
株主資本比率についての一般的な見方としては、10%以下は倒産の危機があり、中長期での投資を考えている方であれば手出し不要です。20〜30%の会社も危険信号が点滅している場合があります。
できれば60%以上は欲しいところです、この水準に達していればかなり健全な会社だといえます。まず倒産することはないでしょう。70%を超えているHOYAは超健全な財務を維持している会社であるといえます。
ちなみに、会社の累積赤字がこの株主資本を上回る状況(つまり、株主資本がマイナスの状況)のことを債務超過といい、経営危機の状態を示します。東証では連結ベースで二年間債務超過が続くと上場廃止になりますので、絶対に手を出さないことをお勧めします。
[他の会社の例]
トヨタ自動車 11,836,092÷32,574,779=36%
日産自動車 3,292,286÷11,481,426=28%
ソニー 3,370,704÷11,716,362=29%
シャープ 1,185,336÷2,968,810=40%
任天堂 1,086,549÷1,575,597=69%
トヨタのような優良会社でも、株主資本比率は36%に過ぎません。これは決してHOYAに劣るということではなく、業界の特色によるものです。自動車会社は、リース業やファイナンス業なども合わせて営んでいるため、銀行などから多額の短期資金を借り入れる必要があります。単純に、数値だけを見て判断をするのではなく、同じ業界の会社と比較することが必要です。(ただし、10%を下回るような会社は、どんな業界でもダメな会社です。ちなみに、倒産1年前のカネボウの株主資本比率はわずか0.7%しかありませんでした。)
次に、流動資産を流動負債で割って算出する「流動比率」も計算してみましょう。
前回触れましたが、会計用語で言う「流動」とは、1年以内のことを指します。すなわち、流動資産とは、現金預金や1年以内に現金化できる資産のことをいい、具体的には売掛金や棚卸資産(商品)などの合計金額です。一方の流動負債は一年以内に返済すべき負債のことを指し、買掛金や短期の借金の合計金額です。
HOYAの流動資産は275,706、流動負債は78,181です。この数値を基に計算すると、流動比率は353%となります。
この数値が100%を切っているような会社はかなり危険です。100%を切ることの意味は、1年以内に入ってくるお金よりも、出て行くお金のほうが多いということを意味しますので、出て行く資金を賄うために、新たな借金をせざるを得ず、自転車操業となっている可能性があります。
逆に、200%を超えている会社は健全といえます。353%のHOYAはここでも超優良といえます。
[他の会社の例]
トヨタ自動車 11,784,123÷11,767,170=100.1%
日産自動車 6,022,254÷4,851,709=124%
ソニー 4,546,723÷3,551,852=128%
シャープ 1,679,263÷1,132,265=148%
任天堂 1,394,673÷468,436=298%
さらに長期的な観点で見る指標で、固定資産を株主資本で割って算出する「固定比率」をみてみましょう。
固定資産は、長期保有を目的としてしている資産で、現金化することを予定しているものではありません。例えば、設備投資として新しい工場を建設した場合や、子会社の株式などがここに計上されることになります。
このように、固定資産は資金が長期にわたって固定し、簡単に換金できないから、返済の義務ない自己資本でまかなっておけば安心で、借金をしてまで設備投資を行っている会社は健全とは言えません。数値が小さいほど安定しています。
HOYAの固定資産は171,937、株主資本は331,145です。この数値を基に計算すると、固定比率は52%となります。HOYAは返済義務のない自己資本の範囲内で設備投資資金を賄っていることが分かります。実際に、HOYAは事実上の無借金経営を行っており、まさに無理なく成長を続けることが可能な財務基盤を持っていると言えます。
HOYAのように、100%以下が理想的ですが、上場企業の平均で150%前後となっており、多くの企業で設備投資が自己資本ではなく借入金で行われていることを示しています。ちなみに、欧米の会社は平均でも100%を下回る水準です。
[他の会社の例]
トヨタ自動車 20,790,656÷11,836,092= 176%
日産自動車 5,909,322÷3,292,286=179%
ソニー 7,169,639÷3,370,704=212%
シャープ 1,679,263÷1,185,336=142%
任天堂 180,924÷1,086,549=17%
[余談]
かつて、村上ファンドが阪神電鉄に目を付けた時に、同社が持っている甲子園球場の含み価値が話題に上ったことがありました。現在の日本の会計制度においては、事業用資産として取得したものについては、貸借対照表上、購入価格、つまり簿価で計上されます。
阪神電鉄が甲子園球場の土地を購入したのは、かなり昔の話ですが、会計上、購入した価格のまま計上され続けることになりますので、貸借対照表上、購入時の価格である800万円で計上されていました。
村上ファンドは、この購入価格と実際の時価との乖離に目をつけたんではないかと言われたわけです。
現在の時価に直すと、甲子園球場の土地の価格は、約155億円です。 こうした、時価と簿価との乖離を許している会計制度のそもそもの趣旨は、事業用資産はもともと現金化することを想定したものではないため、購入価格のまま計上しても、なんら問題ないという考えからです。(どうせ売却しないんだから、時価でなくていいじゃん!的発想。)
国際会計基準では、資産を時価で評価する「時価会計」を採用しており、主要国でこうした計上方法を認めているのは、日本くらいのものです。
購入価格での計上では(原価法といいます)、「含み損益」が財務諸表上反映されていないため、経営実態が分かりにくく、不透明で、投資家にとって有益ではありません。(こうしたことを知ってれば、逆に、投資面で美味しい場合はあるんですが・・。)
日本は一刻も早く、時価会計の全面的な導入を果たし、会社に真の経営状態を示す決算書を提出させるように法整備すべきだと考えています。
財務の健全さを示す指標として、今回は3つの指標をご紹介しました。 これは、中長期的に投資できる銘柄を検討する際に、最低限見ておくべき項目です。
今回、参考事例として上げたHOYAについては、3つの指標全てが優れており、投資先としてはまず安全です。注意して欲しいのは、今回の検討は株価の割安さを求めるものではないということです。
あくまで、会社の財務の健全性を測るための検討であって、永続的に営業を続けていくことが可能であるかに重点をおいた検討です。
中長期投資においては、会社が存続していくことが前提ですので、財務状況をみることは、絶対に欠かせない項目であるといえます。
蛇足になりますが、この指標も、損益計算書の説明の際に書いたように、過去数年と比較し、会社の財務状況は良くなっているのか、悪化しているのか、また、来期以降の業績予測ではどのように変化していくのかといった検討も欠かせません。
今回の話とは直接は関係ないですが、HOYAについては決算発表時に内容を多少検討していますので、参考までに
⇒HOYA(19/3期本決算)決算内容分析
HOYAとペンタックスの合併を巡る混乱についても記事を書いていますので、こちらもどうぞ。
⇒ペンタックスの迷走
今回は、実際の企業が提出した決算短信を基に具体的に貸借対照表のどういった点に着目していけばよいかの説明を行います。
損益計算書の説明の際には、東芝の19年3月決算短信を題材に説明しましたが、今回は、ペンタックスとの合併問題で揺れたHOYAの決算短信を使います。
本当は、東芝の決算短信で説明する予定で、実際に記事は完成していたのですが、貸借対照表は日本と米国会計基準との違いが大きく、題材として適切でないと判断したため、日本の会計基準に準拠している会社を選びました。その点はご容赦下さい。

参考:HOYA19/3期決算短信[単位100万円]
上図は、HOYAの19/3期の決算短信に掲載されている貸借対照表を一つの表に作り直したものです。(決算短信P12〜P13参照)
前回の復習になりますが、表の右側は、資金の出所を示しているもので、「負債の部」と「純資産の部」に分けられます。
一方で左側の「資産の部」は、集めた資金が何に姿を変えているのかを示しています。
貸借対照表は期末段階の財政状態を示すものですので、HOYAの財政状態は健全であるかどうか検討してみましょう。
ここでは、株主資本を資産全体の額で割った「株主資本比率」から算定してきます。株主資本は、自己資本ともいわれ、借入金と違って返済の必要のない安定的な資金といえますので、この比率が高いほど経営が安定しているといえます。
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株主資本比率(%)=株主資本÷資産の部×100 |
HOYAの株主資本は331,924で、資産全体の金額は447,644です。この数値を基に計算すると、株主資本比率は74.1%となります。
株主資本比率についての一般的な見方としては、10%以下は倒産の危機があり、中長期での投資を考えている方であれば手出し不要です。20〜30%の会社も危険信号が点滅している場合があります。
できれば60%以上は欲しいところです、この水準に達していればかなり健全な会社だといえます。まず倒産することはないでしょう。70%を超えているHOYAは超健全な財務を維持している会社であるといえます。
ちなみに、会社の累積赤字がこの株主資本を上回る状況(つまり、株主資本がマイナスの状況)のことを債務超過といい、経営危機の状態を示します。東証では連結ベースで二年間債務超過が続くと上場廃止になりますので、絶対に手を出さないことをお勧めします。
[他の会社の例]
トヨタ自動車 11,836,092÷32,574,779=36%
日産自動車 3,292,286÷11,481,426=28%
ソニー 3,370,704÷11,716,362=29%
シャープ 1,185,336÷2,968,810=40%
任天堂 1,086,549÷1,575,597=69%
トヨタのような優良会社でも、株主資本比率は36%に過ぎません。これは決してHOYAに劣るということではなく、業界の特色によるものです。自動車会社は、リース業やファイナンス業なども合わせて営んでいるため、銀行などから多額の短期資金を借り入れる必要があります。単純に、数値だけを見て判断をするのではなく、同じ業界の会社と比較することが必要です。(ただし、10%を下回るような会社は、どんな業界でもダメな会社です。ちなみに、倒産1年前のカネボウの株主資本比率はわずか0.7%しかありませんでした。)
次に、流動資産を流動負債で割って算出する「流動比率」も計算してみましょう。
前回触れましたが、会計用語で言う「流動」とは、1年以内のことを指します。すなわち、流動資産とは、現金預金や1年以内に現金化できる資産のことをいい、具体的には売掛金や棚卸資産(商品)などの合計金額です。一方の流動負債は一年以内に返済すべき負債のことを指し、買掛金や短期の借金の合計金額です。
| 流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100 |
HOYAの流動資産は275,706、流動負債は78,181です。この数値を基に計算すると、流動比率は353%となります。
この数値が100%を切っているような会社はかなり危険です。100%を切ることの意味は、1年以内に入ってくるお金よりも、出て行くお金のほうが多いということを意味しますので、出て行く資金を賄うために、新たな借金をせざるを得ず、自転車操業となっている可能性があります。
逆に、200%を超えている会社は健全といえます。353%のHOYAはここでも超優良といえます。
[他の会社の例]
トヨタ自動車 11,784,123÷11,767,170=100.1%
日産自動車 6,022,254÷4,851,709=124%
ソニー 4,546,723÷3,551,852=128%
シャープ 1,679,263÷1,132,265=148%
任天堂 1,394,673÷468,436=298%
さらに長期的な観点で見る指標で、固定資産を株主資本で割って算出する「固定比率」をみてみましょう。
固定資産は、長期保有を目的としてしている資産で、現金化することを予定しているものではありません。例えば、設備投資として新しい工場を建設した場合や、子会社の株式などがここに計上されることになります。
このように、固定資産は資金が長期にわたって固定し、簡単に換金できないから、返済の義務ない自己資本でまかなっておけば安心で、借金をしてまで設備投資を行っている会社は健全とは言えません。数値が小さいほど安定しています。
| 固定比率(%)=固定資産÷株主資本×100 |
HOYAの固定資産は171,937、株主資本は331,145です。この数値を基に計算すると、固定比率は52%となります。HOYAは返済義務のない自己資本の範囲内で設備投資資金を賄っていることが分かります。実際に、HOYAは事実上の無借金経営を行っており、まさに無理なく成長を続けることが可能な財務基盤を持っていると言えます。
HOYAのように、100%以下が理想的ですが、上場企業の平均で150%前後となっており、多くの企業で設備投資が自己資本ではなく借入金で行われていることを示しています。ちなみに、欧米の会社は平均でも100%を下回る水準です。
[他の会社の例]
トヨタ自動車 20,790,656÷11,836,092= 176%
日産自動車 5,909,322÷3,292,286=179%
ソニー 7,169,639÷3,370,704=212%
シャープ 1,679,263÷1,185,336=142%
任天堂 180,924÷1,086,549=17%
[余談]
かつて、村上ファンドが阪神電鉄に目を付けた時に、同社が持っている甲子園球場の含み価値が話題に上ったことがありました。現在の日本の会計制度においては、事業用資産として取得したものについては、貸借対照表上、購入価格、つまり簿価で計上されます。
阪神電鉄が甲子園球場の土地を購入したのは、かなり昔の話ですが、会計上、購入した価格のまま計上され続けることになりますので、貸借対照表上、購入時の価格である800万円で計上されていました。
村上ファンドは、この購入価格と実際の時価との乖離に目をつけたんではないかと言われたわけです。
現在の時価に直すと、甲子園球場の土地の価格は、約155億円です。 こうした、時価と簿価との乖離を許している会計制度のそもそもの趣旨は、事業用資産はもともと現金化することを想定したものではないため、購入価格のまま計上しても、なんら問題ないという考えからです。(どうせ売却しないんだから、時価でなくていいじゃん!的発想。)
国際会計基準では、資産を時価で評価する「時価会計」を採用しており、主要国でこうした計上方法を認めているのは、日本くらいのものです。
購入価格での計上では(原価法といいます)、「含み損益」が財務諸表上反映されていないため、経営実態が分かりにくく、不透明で、投資家にとって有益ではありません。(こうしたことを知ってれば、逆に、投資面で美味しい場合はあるんですが・・。)
日本は一刻も早く、時価会計の全面的な導入を果たし、会社に真の経営状態を示す決算書を提出させるように法整備すべきだと考えています。
財務の健全さを示す指標として、今回は3つの指標をご紹介しました。 これは、中長期的に投資できる銘柄を検討する際に、最低限見ておくべき項目です。
今回、参考事例として上げたHOYAについては、3つの指標全てが優れており、投資先としてはまず安全です。注意して欲しいのは、今回の検討は株価の割安さを求めるものではないということです。
あくまで、会社の財務の健全性を測るための検討であって、永続的に営業を続けていくことが可能であるかに重点をおいた検討です。
中長期投資においては、会社が存続していくことが前提ですので、財務状況をみることは、絶対に欠かせない項目であるといえます。
蛇足になりますが、この指標も、損益計算書の説明の際に書いたように、過去数年と比較し、会社の財務状況は良くなっているのか、悪化しているのか、また、来期以降の業績予測ではどのように変化していくのかといった検討も欠かせません。
今回の話とは直接は関係ないですが、HOYAについては決算発表時に内容を多少検討していますので、参考までに
⇒HOYA(19/3期本決算)決算内容分析
HOYAとペンタックスの合併を巡る混乱についても記事を書いていますので、こちらもどうぞ。
⇒ペンタックスの迷走
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